日本映画批評家大賞

第22回受賞作品



武井 咲
武井 咲「今日、恋をはじめます」

スクリーンの中で今、その存在感をメキメキと増大させているのが、武井咲である。
デビューのキッカケが全日本国民的美少女コンテスト。
モデル部門賞とマルチメディア賞の受賞というだけあって、文句なしの美形。
大きな瞳を始めとするあらゆる顔のパーツがコケティッシュで、
日本人離れをしている一方、どこか落ち着いた昭和の匂いも漂わせている。
2009年からTVドラマにレギュラー出演をしているが、
本格的な活動が始まったのは2011年の「大切なことはすべて君が教えてくれた」の
オーディションに勝ち抜き、準主演の座を射止めてからで、
翌年の2012年には「平清盛」「Wの悲劇」「息もできない夏」等で重要な役を演じている。
注目すべきはこの年に、「愛と誠」「るろうに剣心」「今日、恋をはじめます」という
3本の映画のヒロインに抜擢されていること。
どの作品でもとんでもない男性に翻弄されながらも、
いつのまにかイニシアチブを握っているブレないオンナをキリリと演じている。
「愛と誠」ではドラマの途中でいきなり昭和歌謡を歌い出すという
スットコドッコイの展開になるが、それも殊の外しっくりとくる。
彼女の一途なキャラクターのおかげだろう。
映画を見る限り「常に直球勝負!」というイメージが強いが、
実生活ではお菓子作り、中日ドラゴンズ、肉食系男子が好きと公言するなど、
やや変化球っぽい面もある。
どっちにしてもTVサイズには収まりきらないとびっきりの大型新人が誕生した。
誕生と言えば、彼女の誕生日は12月25日。
これは映画界への素敵なクリスマス・プレゼントに違いない。

新人男優賞(南俊子賞) 青柳 翔
青柳 翔「今日、恋をはじめます」

劇団EXILEのメンバーとして舞台、テレビ、映画で注目の青柳翔。
正統派の二枚目、184cmの長身で、女性ファンの熱い視線を一身に集めている。
聞き心地の良い声も魅力だ。
映画デビューは「ふたたび swing me again」(2010年)。
2012年から現在までに主演を含め、4本の映画が公開。
「メンゲキ!」では、30歳を目前に人生の岐路に立たされた
主人公の劇団員・本郷晋之介。
「今日、恋をはじめます」では、武井咲演じるヒロインが
自分の人生を歩むきっかけを与える美容室のオーナー・花野井。
今年1月に公開された「渾身 KON-SHIN」では、伊藤歩とW主演。
駆け落ち同然で一緒になった妻に先立たれ、
幼い娘を育てながら相撲の稽古に励む坂本英明を熱演した。
因習やしきたりが色濃く残る島で、周囲の冷たい視線に耐えながらも、
一心に相撲に取り組み、亡き妻の親友(伊藤歩)と結ばれるひたむきな姿は、
人々の心に少しずつ変化をもたらしていく。
初体験の相撲に専念することが役作りにつながると考え、
約二ヶ月間、懸命に稽古に励み撮影に臨んだ。
苦労の甲斐あって、クライマックスの取り組みシーンは圧巻の迫力。
地元の人たちの熱い応援を受け、家族や地域の人たちの絆、
思いやりを体感したという。
凛々しいまわし姿も良く似合う。
同じく1月に公開された「ユダ」で演じた
カリスマ性溢れる青年実業家役も記憶に新しい。
「今年もがむしゃらに全力で一作品ごとにぶつかっていきたい」と宣言。
6月には主演作「サンゴレンジャー」の公開も控えている。
作品ごとに新たな魅力を発揮する彼から目がはなせない。
さらなる活躍に期待している!

新人男優賞(南俊子賞) チャンミン
チャンミン「黄金を抱いて翔べ」

東方神起として歌&ダンスパフォーマンスで、絶大な人気を誇るチャンミン。
韓国ではドラマ「アテナ:戦争の女神」(2011年)や
「パラダイス牧場」(11年)に共演。
演技力を高く評価されていたが、日本で満を持しての映画初出演となった。
それが、大阪の銀行の地下に眠る、
鉄壁の警備システムに守られた240億の金塊強奪を企む
6人の男たちの姿を描く「黄金を抱いて翔べ」だ。
チャンミンが演じるのは、北朝鮮のスパイで
爆破のエキスパートのチョウ・リョファン、通称“モモ”。
国から裏切り者とされ、実の兄に命を狙われて殺してしまうという哀しい宿命の青年だ。家族さえも信じることができず、身を潜めて生きている極限状態の中、
それぞれ事情を抱える男たちと出会い、運命が交錯していく。
国も家族も捨て、誰にも心を許すことが出来ずに生きてきたモモが、
強奪仲間たちと出会い、少しずつ変わっていく心情をチャンミンが繊細に演じている。
東方神起の全国ツアーという忙しいスケジュールと並行しての撮影は、
かなりハードだったはず。
華やかなスポットライトを浴びてステージに立つチャンミンとは、
あまりに対照的な役だが、深い悲しみを湛えた眼差し、
絶望的な暗さをにじませて見事に演じ、切なく胸を締めつける。
モモというキャラクターに生命を吹き込んだチャンミン。
さまざまな経験をしてきた彼だからこそ、作り出せた人物像だと言って良いだろう。
これを機に日本映画にもっと出て欲しい。
スクリーンでまた会える日を楽しみにしている!

助演男優賞 大沢たかお
大沢たかお「終の信託」

厭な奴や悪役が上手ければ上手いほど映画は輝く。
2012年、最も話題になり、日本映画ペンクラブ会員選出ではダントツの一位になった
周防正行監督の「終の信託」はそんな作品のひとつ。
 大沢たかお演じる検察官塚原は
尊厳死を選択した医師折井彩乃(草刈民代)を検察庁に呼び出し、
司法制度をかさに、時に大声でぎょっとさせ獲物を追いつめる
猛獣のように目はギラギラとしながら、
姿勢はあくまでも冷静沈着な鼻持ちならないイヤな男を見事に演じている。
 その気迫に、大沢たかおに似た違う人なのではと思ってしまったほどだ。
それほどまでに、大沢たかお自身のイメージは、爽やかそのもの。 
 1994年に映画界デビューして今年で20年目。好青年役はピッタリはまっているが、
ギャングの悪役を演じても格好いいし、今年公開の「ストロベリーナイト」のように、
たとえ犯人であっても女刑事がふっと心動かす魅力ある男といったニクい役もいい。
春に公開の「藁の楯」では、殺せば何億と言った賞金が懸けられた
殺人犯を護衛する刑事の複雑な心理と立場をリアルに演じている。
 大学時代にモデルとしてスカウトされ、以来コマーシャル、テレビドラマ、
映画、舞台と幅広く挑戦しているだけに、いろいろな役をこなせる
才能の持ち主と言うことは証明されているが、
「終の信託」では、いやらしいほど怖い。
役者として最高の演技だが、余りやって欲しくない役でもある。
もっとも、ご本人は、自分と全く違うので
けっこうのめり込んで面白がって演じていたのかもしれないが・・・。
 45歳の男盛り、歳を重ねて素敵になっていく、
違いのわかる男をスクリーンで今後も楽しみたい。

助演女優賞 松原智恵子
松原 智恵子「トテチータ・チキチータ」

数々の日活映画に出演し、吉永小百合、和泉雅子とならんで
日活三人娘と呼ばれていたころの松原智恵子は、
団塊世代にとって光り輝く眩しい存在だった。
大学生のとき、学園祭のゲストでやってきた彼女の、
勝気さを秘めた凛とした美貌を見て、
まるで別世界の人のように憧れたことがある。
あれから40年以上の歳月が流れたが、今でも許せないほど品がよくて美しく、
日常生活の苦労や人生の疲れを感じさせないのは、
虚構の世界を体現するプロの演技者として凄いことだ。
 受賞対象になった「トテチータ・チキチータ」では、太平洋戦争で両親と兄を亡くし、
古い家に一人で暮らす認知症の老女・木暮百合子を演じている。
遠い過去と現在が混在し、一瞬にして少女時代の自分に戻ってしまう難しい役である。
百合子は訪ねてきた年下の一徳(豊原功補)を「お兄ちゃん」と思い込んで
少女のように泣きじゃくったり、
ホームセンターでショッピング中に蘇った空襲の記憶に怯え、
「お母さーん」と叫んで小学生の少女・凛(寿理菜)に助けを求める。
前世の家族がこの世で再会を果たす、夢のようなストーリーなので、
素直に感情移入を誘う松原の自然な演技があってこそ、
時空を超えたファンタジーが成立している。
 活躍の場をテレビに移して久しい松原だが、
勝手に銀幕スターだと思っているので、映画で出会えると嬉しい。
最近では「私の叔父さん」や「きいろいゾウ」でも健在ぶりを発揮した。
どんな役を演じても可愛らしさが際立つのは、
彼女がいい意味で少女らしさを失っていないからだろう。
女優の仕事には定年がないのだから、
これからも永遠のマドンナとして頑張ってほしい。

主演男優賞 松坂 桃李
松坂 桃李「ツナグ」

対象になった「ツナグ」は直木賞作家、辻村深月の原作を平川雄一朗が
脚本・監督した作品だ。
高校生の歩美(松坂桃李)は祖母のアイ子(樹木希林)と暮らしているが、
アイ子は生者と死者を取り持つ<ツナグ>という特殊な能力を持っている。
歩美は祖母のあとをついで<ツナグ>になろうと見習い中だ。
母親に会いたいと思っている横柄な男(遠藤憲一)を
亡母(八千草薫)に会わせることに成功した歩美は、
級友の美砂(橋本愛)に事故死した親友の奈津(大野いと)と
会わせてもらうよう頼まれる。
このようなファンタジーは、いったん非現実的と思い込み、拒否的な反応を示せば、それで終わりだ。
しかし、映画としてしっかりしたストーリー構成があり、
あとは監督らの優れた映像感覚、編集、それに俳優の真摯な演技があれば非現実的という思いは消える。
この映画がまさしくそうで、松坂桃李のフレッシュな魅力と樹木希林の老獪な演技でしっかり支えられ、
見応えのある作品になっている。
松坂桃李は2008年に雑誌のモデルとして芸能活動を始めた。
名前の桃李は司馬遷の「史記」から取られたせいか、
どこか上品で大事に育てられた好人物という感じがある。
2011年の「アントキノイノチ」「僕たちは世界を変えることができない。」で
にわかに注目され、2013年ラブロマンスの
「今日、恋をはじめます」と「ツナグ」で大物の片鱗を現した。
目が離せない若手スターだ。

主演女優賞 安藤 サクラ
安藤サクラ「かぞくのくに」

春の陽気とは関係なく、このサクラ吹雪は昨年、年間を通して日本中を吹き荒れた。
これからも、その猛威は当分止みそうにもない。これぞ、安藤サクラ旋風である。
「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」と、
2本のドキュメンタリー映画で注目された女性監督ヤン・ヨンヒが、
自身の実体験を基に撮った初めての劇映画が「かぞくのくに」。
この作品で主役のひとりを演じたのが安藤サクラである。
北朝鮮に住む兄(井浦新)が病気治療のため25年ぶりに一時帰国する。
喜ぶ一方で、思想や価値観の違いに戸惑い、理不尽な政治情勢に振り回される家族。
彼女は、ヤン監督自身がモデルともいえる日本に住む妹役を熱演している。
選択の自由のない国で生活し、言葉少ない兄。彼に気遣う父母や友人。
そんな中で、兄を慕い、正面からぶつかる妹役というむずかしい役所だ。
1986年生まれの安藤サクラは、この作品のオファーを受けてから、
ヤン監督の「ディア・ピョンヤン」を見て、
この映画に描かれているような事実を知ったという。
演じるうえで、心の痛みを伴うシーンが多かったと語る彼女は、渾身の思いでこの役を演じきり、
監督に代わって、在日コリアン2世としての北朝鮮への思いを体現したといえる。
07年に、父・奥田瑛二監督の「風の外側」のヒロイン役でデビュー。
その後「愛のむきだし」(09年)「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」(10年)
そして昨年の「愛と誠」の恋するスケバン役など話題作に
多数出演して独特の存在感を発揮している。
現代の日本映画を牽引する個性派女優の若手筆頭格・安藤サクラ。
昨年は柄本佑と結婚。今年は父が監督、夫婦共演の新作もある他、
舞台にTVにと大忙しの毎日。
これからのサクラ前線の動向に注目していきたい。

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